ジュリアス・ランドルが、自らの時計コレクションとコレクション哲学を垣間見せてくれた。

ケンタッキー州レキシントンのラップ・アリーナから、現実離れしたロサンゼルスの眩しい陽光(それにレイカーズの伝説的選手である故コービー・ブライアント)、そしてニューヨーク・ニックスの本拠地であるマディソン・スクエア・ガーデンまで、ジュリアス・ランドルはスポットライトを浴びることに慣れている。彼はNBAキャリアの充実した日々をニューオーリンズで過ごし、同じ元ワイルドキャットのアンソニー・デイビスとプレーした。アンソニーは、チームの顔としての高い責任という点で、ランドルのメンターとしての役割を果たした。しかし、バスケットボールのアドバイスに加え、デイビスはランドルを時計コレクターという新たな境地に導いた。

ランドルが82試合のレギュラーシーズン(さらにプレーオフ)の過酷なトレーニングや練習に取り組んできたのと同じように、彼は時計収集の探求にも真剣に取り組んできた。彼のコレクションの時計はすべて彼自身が手に入れてきた時計であり、キャリアの象徴であり、それぞれの時計には特別な思い出と、スピリチュアルな力が宿っているのだ。

秋の初め、2023-24シーズンのトレーニングキャンプを目前に控えたランドルとニューヨーク市内の彼のアパートで会った。夏をどのように過ごしたか、そして彼のこれからのシーズンの見通しについて話をしてくれた。しかし、我々の時間の大半は、ご想像のとおり、腕時計、つまり彼の腕時計のことに費やされた。というのも、それは彼のコレクション哲学を反映しているからだ。ここで紹介する時計は(その価値が非常に高まっているにもかかわらず)投資対象ではなく、ランドルは時間をかけて次の時計を選んでいる。

ランドルの時計コレクションのすべてを見たわけではないが、代表的なコレクションを見せてもらいながら、それぞれの時計にまつわるエピソードを聞かせてもらった。ある時計は彼のキャリアの礎となった瞬間であり、またある時計は彼をうつ状態から立ち直らせるための精神的な支えにもなった…そしてある時計はその両方を兼ね備えていた。NBAと時計界は常にクロスオーバーしてきたが、ランドルは単なる時計愛好家ではなく、時計愛好家として際立った存在だ。今回のTalking Watchesでも、彼はその魅力を存分に発揮している。

ロレックス デイトジャスト

この時計がランドルにとって、時計コレクションという観点からでは、すべての始まりだった。アンソニー・デイビスという時計の第一人者のもとで指導を受けたランドルは、ダイヤモンドインデックスがダイヤルを飾るコンビのデイトジャストを購入した。見てみると、よく使い込まれ、よく愛されていることがわかる。この時計は、彼がこのワイルドな趣味の世界に足を踏み入れるきっかけとなっただけでなく、これは彼が毎年、頼りにし、戻ってくる時計なのだ。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク トゥールビヨン

ランドルは、この時計がチタン製であることから、信じられないほど軽量であることを最初に話すだろう。彼は当初、ブルーダイヤルに引かれていたが、その後、トゥールビヨンの構造に心を奪われたという。オーデマ ピゲ ロイヤル オークは、このコレクションでお目見えする数多いロイヤル オークのうちの最初のモデルである。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク フロステッド クロノグラフ

軽快なチタンから、はるかに重く、完全なる氷漬けの世界へと移る。これは、フロステッド加工を施したホワイトゴールドのオーデマ ピゲ ロイヤル オークで、ダイヤルは深い紫である。この時計が特別なのは、非常に限定的で入手が不可能に近いという事実以上に、基本的に彼が所有する時計を売らないという決断を固めた時計だからだ。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ

時計が癒しになることもある。このロイヤル オーク オフショアは、ランドルが必要としたイタリア旅行のお供をしていた。目を見張るような、世界観が変わるような逃避行の道中、この時計はそのすべての瞬間に彼の腕にあった。ランドルはこの時計を身につけるたびに、イタリアでの素晴らしい時間を思い出す。

リシャール・ミル RM 11-03

オーデマ ピゲから少し遠回りして、我々はすぐにRM 11-03という真の大物に直面することになる。ランドルはこの時計を、彼にとって初めてのリシャール・ミルであり、これからも所有する唯一のリシャール・ミルと呼んでいる(この時計の購入について、彼の会計士はまだ許していないそうだ)。彼はこの時計の軽さとブランドが提供する互換性の両方を気に入っており、オートレースへの愛を思い起こさせるそうだ。この時計をつけて試合に出ると、彼はフルスピードで走っていることを実感する。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー

ランドルは複雑時計とそのメカニズムの理解者でもあり、愛好家でもある。パーペチュアルカレンダーはその意味で複雑機構の筆頭格といえる。しかし、複雑な時計も家族と共有することでシンプルになることがある。彼の場合、オーデマ ピゲのパーペチュアルカレンダーを愛用しているのは彼の子どもたちで、ムーンフェイズ表示に浮かび上がる満月を見るのが大好きなのだ。この時計を見たランドルは、近い将来ル・ブラッシュに行き、APマニュファクチュールを訪れたいとのこと。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オフショア ミュージックエディション

オーデマ ピゲのレパートリーの最後を飾るのは、このエピソードの撮影中、ランドルが手首にしていた時計である。この時計は、オールスターゲームに出場したランドルが自分へのご褒美として購入したものだ。ムーンフェイズと同様、これは彼の子どもたちのお気に入りでもあるが、オールスター出場を常に思い出させてくれる時計でもある。これ以上最高のものはないだろう。

ロレックス GMTマスターII “レフティ” GMT

ロレックスに始まり、ロレックスに終わる。しかしこれはただのロレックスではない。トリを飾るのはGMTマスターII “レフティ(左利き用)”GMTだ。彼自身左利きなので、ランドルにとって特別なのだ。このような時計を自分のコレクションとして持つことは、彼にとって当然の成り行きと思ったそうだ。この時計は彼に、“この時計は左右どちらの手首につけたらいいのだろう?”と立ち止まらせた時計である。

ゼニスはブランドが誇る高振動クロノグラフのクロノマスター スポーツシリーズに加わるふたつの新作モデルを発表した。

ブランドの最もモダンなクロノグラフに、ふたつの新しい(そしてまったく異なる)バリエーションが加わった。

直径42mmのスティール製ケースを採用するクロノマスター スポーツは2021年初頭に発表され、クロノグラフとブラックまたはホワイトの文字盤がラインナップの中心だった。ここ数年のあいだに、貴金属、ツートン、そして少数のブティックエディションの展開が見られたが、本日の発表では、グリーンのトーンが特徴的なスティール製モデルと、メテオライト文字盤上のインデックスとベゼルへふんだんにジェムセッティングが施された、ローズゴールドモデルのオプションが追加された。

核となる機能は既存のクロノマスター スポーツモデルと同じで、3万6000振動/時のハイビートのエル・プリメロ コラムホイール クロノグラフムーブメントを搭載し、10分の1秒の計測(ベゼルで読み取ることができる)を実現している。宝石の有無やケース素材に関係なくケースは直径41mmで、新バージョンはいずれも特徴的な3色のクロノグラフサブダイヤルを備え、ランニングセコンド、クロノグラフセコンド(中央の針が10分の1秒を計測)、最大60分の計測が可能だ。

新鮮なのは、スティールモデルのグリーン文字盤(スティール製ブレスレットかグリーンのラバーストラップの選択も可能)と、そしてもちろん、ジェムセッティングモデルとそのメテオライト文字盤である。とはいえ、グリーンはまったく新しいものではない。昨年、アーロン・ロジャースとのコラボレーションによるブティック限定モデルでも同様のカラーリングで見られたからだ。そのモデルは、カラーとアラビア数字の採用の両方で常識を覆したが、この新しいグリーンモデルは、スタンダードモデルのバトン・アワーマーカーを残している。

ベゼルにはスピネル、サファイア、ダイヤモンドがセットされ、ブルー、ブラック、グレーの3色で構成され、カーディナルマーカーにはダイヤモンドがあしらわれている。ゴールドトーンのメテオライト文字盤にはダイヤモンドのバゲットマーカーが配され、デイトホイールもカラーマッチさせている。宝石はともかく、クロノマスター スポーツにはメテオライト文字盤がよく似合う。

価格は、グリーンモデルのラバーストラップが141万9000円、ブレスレットモデルが149万6000円、フルジェムセッティングが施されたピンクゴールドがなんと1265万円だ(すべて税込)。

我々の考え
特にクロノマスター スポーツは、ロレックス デイトナに対するゼニスの回答という位置づけであることを考えると、既存ラインの延長という点では、どちらも予想通りの展開といえる。グリーンは多くの時計ラインアップで依然として人気のあるオプションであり、宝石をセットするトレンドは多くの高級ブランドから支持を集め続けている(そして、フルレインボーにしなかったゼニスに賞賛を送りたい)。

クロノマスター スポーツのブラックやホワイト文字盤に比べれば、このふたつのオプションはニッチなものになると思わざるを得ないが(特に宝石がセットされたモデルには4桁万円の値札がつけられている)、SKU偏重としか言いようのない時計デザインの時代が続いているのだから、このように購入希望者にもっと選択肢を与えてもいいのではないだろうか。

この価格帯においてデイトナは他の追随を許さない人気を誇っており、ゼニスがグリーンのカラーリングやダイヤモンド、あるいはメテオライトダイヤルなど、買い手にアピールするためにできることは何でもやるのは仕方がないのだ。

LVMHウォッチ・ウィークの新作情報を続々と公開していくのでお楽しみに。

基本情報
ブランド: ゼニス(Zenith)
モデル名: クロノマスター スポーツ グリーンとクロノマスター スポーツ ゴールド プレシャスストーン(Chronomaster Sport Green and Chronomaster Sport)
型番: 03.3119.3600/56.M3100 (グリーン、ブレスレット)、 03.3119.3600/56.R952 (グリーン、ラバー)、22.3100.3600/69.M3100 (ゴールド、ジェムセッティング)

直径: 41mm
ケース素材: スティール、または18Kローズゴールド
文字盤色: グリーン、またはメテオライト
インデックス: グリーンモデルは夜光つきのロジウムメッキ、ゴールドモデルはバゲットカットのダイヤモンド
夜光: あり、スーパールミノバ SLN C1
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: 素材にあわせたブレスレット、Ref.03.3119.3600/56.R952にはグリーンのラバーストラップ

ムーブメント情報
キャリバー: ゼニス エル・プリメロ 3600
機能: 時、分、10分の1秒計測が可能なセンタークロノグラフセコンド、スモールセコンド(9時位置)、60分積算計(6時位置)、60秒積算計(3時位置)
パワーリザーブ: 60時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 3万6000振動/時
追加情報: ベゼルに10分の1秒目盛り、コラムホイールクロノグラフ、4時半位置に日付表示

価格 & 発売時期
価格: 141万9000円(グリーン、ラバーストラップ)、149万6000円 (グリーン、ブレスレット)、1265万円(ゴールド、ジェムセッティング)、すべて税込
限定: なし

ブライトリングとベッカムのファッションブランドによるパートナーシップは、

ヴィクトリア・ベッカム(Victoria Beckham)のファッション業界への“参入”は、2000年代初頭のVB Rocksという名前のデニムラインから始まったと考えるとおもしろい。同ブランドは、ジーンズの価格を1本300ドル(当時の相場で約3万2000円)に設定して不評を買った。1980年代初頭、ディーゼルやトゥルーレリジョンなどのデザイナーズデニムブランドは、すでにジーンズに5桁の値段をつけていた。しかし、ベッカムの価格はほかよりも飛び抜けて高く、顧客は値段の高さに驚き戸惑ったが、同時に業界の利益を積極的に押し上げる道も開いた。現在のデザイナーズデニムの普及と、率直に言って法外な価格を考えると、今にして思えば笑ってしまう。バレンシアガやグッチ、ボッテガ・ヴェネタがデニムの全ラインを整えてコレクションに取り入れる前のことである。ベッカムは実に予言的だったのだ。

VBは常に少し先を行っている。90年代以降の文化的語彙の主要な定番であるベッカムのキャリアの軌跡は、これまで存在したなかで最も有名なガールズバンドの5人のうちのひとりとして始まり(この件に関しては私に挑戦して欲しい)、のちに世界的なベッカム家の後継者となった。今日、ベッカムは彼女の名を冠したファッションブランドの創設者兼クリエイティブ・ディレクターとして、ファッション業界で正当な力としても知られる。ヴィクトリア・ベッカムは、パリで毎シーズンプレタポルテコレクションを発表し、それらは世界50カ国、230店舗で販売されている。

ベッカムは先日、ブライトリングとコラボレーションしたウォッチコレクションを発表すると同時に、彼女が手がけた最新デザインも披露した。‌クロノマット オートマチック36 ヴィクトリア・ベッカムコレクションは6型のバリエーションがあり、すべて合わせて1500本の限定となっている。典型的なクロノマットであり、脊椎骨に似たルーローブレスレットは、触れるたびにポリッシュ仕上げの溝に指をかけたくなる(私だけ?)。また15分置きに伝統的なライダータブもある。今回の限定コレクションは、ステンレススティールとイエローゴールドのふたつの素材で展開。YGはこのラインのために、ブライトリングが特別に復活させた素材である。スイス時計ブランドの皆さん、注目あれ!

新しい文字盤のカラーリングは、ペパーミント、ミッドナイトブルー、ダブグレー、サンドなど、ベッカム自身の2024年春/夏カラーからインスパイア。文字盤にはブライトリングのロゴ、秒針にはヴィクトリア・ベッカムのイニシャルをあしらっている。内部には、6時位置に日付窓を備えた自動巻きブライトリングCal.10を搭載。ムーブメントのパワーリザーブは約42時間で、COSC認定を取得している。

36mmという非常に控えめなサイズにもかかわらず、きちんと重量感がある。90年代のブライトリングらしく、がっしりとしたデザインであり、ベッカムが時計を身につける際、このスタイルが似合っていることは誰もが知っている。「一般的に、私はもっと男性的な時計が好きです。ただ女性らしさやエレガンスも感じられる時計が好きなんです」。と彼女は言う。彼女の意見には共感できる。私もより重量感のある時計が好みだ。しかし、完璧な中間的プロポーションでなければならず、重厚感と視認性、そして曲線美と着用感のバランスが取れていなければとは思う。大きめで“マスキュリン”な時計を、少しゆったりと手首につけるというコントラストが、かえって女性らしさを引き立ててくれるかもしれない。オーバーサイズの服を着ると体が小さく感じるかのような、ボーイフレンドジーンズ効果と同じようなものだ。

この時計は決してデザインを一新したわけではなく、古典的なモデルを刷新したものだ。それはそれでいいのだが、ブライトリングはブランドを改革しようとしているのではなく、既存の製品に手を加えることで新しい層にアピールしようとしているのだ。ベッカムは「ブライトリングが得意とすることを取り入れ、そこに私のちょっとした工夫を加えただけです」と説明し、「最終的には、女性である私が身につけたいと望む時計をつくることです」と述べた。

このパートナーシップは見た目ほどあり得ないものではない。VBは、ポップスターになりたての頃から誇らしげに時計をしている。最初はSSのカルティエ タンク フランセーズを、当時のボーイフレンドだったデビッド・ベッカム(David Beckham)と揃いのフランセーズで組み合わせていたのが始まりで、そこからYG製ヨットマスター(これもデビッドとのペアモデル)へと発展した。その後、無数のダイヤモンドがセットされたジェイコブのファイブタイムゾーンも登場し、やがて雪だるま式に増え、かなり本格的な時計コレクションになっていった。

VBは常にポップカルチャーと時計のベン図の一部であった。Z世代がInstagramで、90年代のヴィジュアルカルチャーの儚さを蒸し返すことに夢中になっていると考えると、彼女の数十年前の時計の選択は、オンライン上で不滅のものとなっている。1997年、ヴィクトリアとデビッド・ベッカムが同じカルティエウォッチをした、今ではとても有名な1枚となった空港でのパパラッチ写真は、グッチのクリエイティブ・ディレクター、サバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)氏が昨年末行ったデビューキャンペーンのインスピレーションにもなった。これがベッカム夫妻のパワーなのだ。

近年、ベッカムは正真正銘の時計コレクターとして知られるようになった。ノーチラスのRef.7118/1300 R-00やRef.116505のエバーローズデイトナなどを愛用している。そして今、ベッカムは自身のウォッチラインを立ち上げるに至った。身につけるだけではなく、つくることこそが2024年に真の影響力を発揮する方法だからだろうか?

興味深いことに新しい時計コレクションは、ブライトリングと彼女のプレタポルテブランドとのパートナーシップであり、VBという女性とのパートナーシップではない。これは完全に理にかなっている。ベッカムとブライトリングは、セレブリティだけでなくデザインにも力を入れることで、時計とより広い世界を掛け合わせることができる。ヴィクトリア・ベッカムは当然の選択のように見えるが、彼女のブランドをプラットフォームとして使用し、焦点としての彼女自身を排除することで(注意:彼女はキャンペーンには登場しない)、女性消費者に対して少し真面目かつ立派な語りかけになっている。アンバサダーを兼ねたコラボレートではなく、伝統あるスイスウォッチブランドとの本格的なファッションブランドのコラボレーションなのだ。

個人的に、2024年にブライトリングの時計を購入する女性を知らないため、ブランドはこのような演出をする必要があるだろう。これはブランドCEOであるジョージ・カーン(Georges Kern)氏にとって非常に透明性の高いトピックである。「私たちは主にメンズブランドですが、なぜ市場の50%に向けて、自分たちを閉ざす必要があるのでしょうか? しかし私たちはこの男性(優位の)市場において、クールでリラックスした選択肢でありたいと思っていますし、レディスウォッチでも同じ位置付けになりたいのです。非常に保守的で、古典的なスイス時計製造に代わる自由な選択肢です」

ベッカムは女性に語りかける方法を理解している。今日、彼女の手がけるルックは洗練されていて清潔感がある。彼女のプレタポルテラインは、リラックスしていて、少し脱構築的であり、都会的な仕立て、完璧にカットされたウールのコート、足首をかすめる程の流動的なシルクのドレスで構成されている。いわば大人のためのものだ。そしてラグジュアリーファッションブランドには、非常に洗練されたキャンペーンイメージがつきものだ。ベッカムがこのコレクション発表のために、ブライトリングに持ち込んだ戦術は明らかである。彼女はクリエイティブディレクターとしても強力な主導権を握っていたようで、キャンペーンの撮影にはマリオ・ソレンティ(Mario Sorenti)氏を起用した。ソレンティ氏はファッションフォトグラファーとして高く評価されている人物で、過去30年間にわたり、私たちの記憶に永遠に刻み込まれるファッションキャンペーン(カルバン・クライン、シャネル、サンローランなどをクライアントに持つ)を撮影してきた。ベッカムはまた、彼女のモデル・ミューズのひとりをキャンペーンの主役に起用し、ヴィクトリア・ベッカムのルックとアクセサリーをフルに使用して撮影をスタイリングした。両ブランドに利益をもたらす、完璧で堅実なマーケティング機会をなぜ無駄にするのか? しかも消費力の高い現代女性が共感できるようなイメージを育ててみてはどうだろうか?

私は“史上最高のヴィクトリア・ベッカムの衣装75選”というタイトルのリスト記事に掲載された、無数のVBの写真をスクロールした。結果、90年代にいくつかのワイルドな選択があったにもかかわらず(彼と彼女のサロンをマッチングさせる誰かとか?)、彼女のスタイルは2000年代に入ってから一貫していることが明らかになった。例えばベッカムは、シンプルなアライアのドレスや、同じ黒縁サングラスを愛用するルーティンを常に理解している。それは彼女のユニフォームに対する見解であり、しばしばそのユニフォームには時計も含まれていることが多い。つまりファッションにおけるVBの力は全能だと言いたいのだ。今のところ、たった1500ピースの小さなパンチかもしれない。しかしこれがVBの真の実力と同じだけの影響力をもたらすかどうか、注目していきたい。

クロノマット オートマチック36 ヴィクトリア・ベッカムは、ブライトリングブティックおよびブライトリング公式ウェブサイトにて販売中。価格はSS製モデルのペパーミント、ミッドナイトブルーが72万6000円、ダブグレーが77万5500円、YG製モデルが414万1500円(どちらも税込)。

ブラウン BN0279 センターセコンドとブラウン。

ふたつの限定モデル、各100本。いずれもブラウンのアーカイブにインスパイアされたもの。

ブラウンは、「デザイナーのデザイナー」ディーター・ラムスのプレイグラウンドとして知られている。もしかしたら、あなたのバスルームの引き出しにブラウン製のシェーバーが眠っているかもしれない。あるいは、このブランドについて漠然としか知らないかもしれない。いずれにせよ、ブラウンのインダストリアルデザインのヘリテージがあなたの人生に影響を与えた事実に変わりはない。洗練されたライン、ミニマルな工業的カラーパレット、機能優先のモダンな要素は、私たちが日常的に接するモノのどこにでもある特徴となったが、こうした美的原則を人々の意識の最前線に押し上げ、革命的としか言いようのないムーブメントを起こしたのは、ブラウンの全体的なビジョンだった。

ブラウン BN0279 センターセコンドとブラウン  BN0279 サブセコンド リミテッドエディション for Hodinkee。

ブラウンは70年代からいくつかの目覚まし時計を発表していたが、腕に身につけられるサイズの時計、特にアナログ腕時計のデビューはずっと後になってからのことだった。80年代にブラウンが発表した丸型と角型のデジタルウォッチデザインのデュオののち、ディーター・ラムスの弟子のひとりである工業デザイナーのデートリッヒ・ルブスが、真に「ブラウンにふさわしい」アナログ腕時計の美学を定義することになる。若き日のルブスは、リピーター顧客に感謝の印として配られる日本製の安価な腕時計に愕然としたという。こうしたプロダクトへの怒りを師匠であるラムスにぶつけたルブスは、ブラウンの名を冠するにふさわしい腕時計を作ることにしたのである。

ルブスは、最も本質的な要素に絞り込んで腕時計を作ることを決意し、1989年にブラウン初の腕時計、AW10を完成させた。可能な限り機能的にデザインされたAW10は、シンプルで合理的な時刻表示のみのデザインで、ブラウンの特徴である鮮やかな黄色の秒針と書体を備えていた。1991年には数字のないAW50が登場し、日付窓の両脇にシェブロンと呼ばれる赤い矢印のディテールを配し、視認性と機能性を高めた。

詳細はこちら

ブラウン・アーカイブの目覚まし時計コレクション。

オリジナルのブラウンAW10 & AW50 ウォッチ。

ブラウンのヘリテージ保管庫にあるこれらのオリジナル腕時計デザインからインスピレーションを得た、ブラウンとの初のコラボレーションモデル、BN0279センターセコンドとBN0279サブセコンドをHodinkee Shopで限定販売する。ブラウンの真髄であるミッドセンチュリーモダンを現代的なタッチで表現したこのタイム&デイトモデルは、それぞれ100本のみの限定生産で、40mmケースとブラウン初のスイス製機械式ムーブメントを採用。

40mmサイズのビーズブラスト仕上げのステンレススティール製ケースは、特にモダンな印象を与えるが、AW10とAW50の関連性は一目瞭然。それは、3時位置の日付窓の脇に配された赤いシェブロンと、1975年の目覚まし時計時代からのブラウンの特徴であるイエローの秒針に顕著に表れている。必要なものだけを削ぎ落とし、文字盤の視覚的な調和を乱すような数字は一切見当たらない。時刻を示すのは、夜光塗料を塗布したスリムな針と、文字盤の外周を一周する白いミニッツトラックだけ。さらに、ブラウンの協力を得て、ビーズブラスト仕上げを施したユニークなケースを採用した。

12時位置には、ブラウンのアイコニックなロゴがブラックでプリントされ、その特徴的な特大の「A」の文字が全面にあしらわれている。このふたつのモデルを際立たせるために、一方のモデルにはブラックのセンターセコンド針とイエローの先端を、もう一方のモデルには6時位置にイエローのサブセコンド針を配した。

ブラウン BN0279 センターセコンドとブラウン  BN0279 サブセコンド リミテッドエディション for Hodinkee。

1921年、ドイツのメカニック兼エンジニア、マックス・ブラウンによってフランクフルトに設立されたブラウン社のヘリテージの礎は、革新的なソリューション、非の打ちどころのない品質、常識を覆すアイデアへの揺るぎないコミットメントである。初期の成功ののち、ブラウンは1932年に、ラジオとレコードプレーヤーを一体化させた機器を初めて製造したメーカーのひとつとして脚光を浴びた。1951年にマックス・ブラウンが不慮の死を遂げた後、彼のふたりの息子、アルトゥールとエルヴィンが会社とその遺産の経営を引き継ぎ、ブラウンブランドを新たな高みへと押し上げた。

時代の嗜好や理想の変化を敏感に察知したブラウン兄弟は、モダンデザインとバウハウス運動の美学を消費者向け製品のレパートリーに取り入れるようになった。機能優先のデザインに基づく、型にはまらない伝統にとらわれないアプローチは、後にブラウンブランドのアイデンティティを示す名刺代わりとなった。1955年、この革新的なデザイン・ファーストのプロセスが、ついに世に登場する。ブラウンは、1955年に開催されたラジオ・エキシビションで、新しいラジオ・プレーヤーのラインナップを展示し、モダン建築の新しい美学を、製品そのものと同じように厳格でミニマルな展示ブースで披露したのだ。

インダストリアル・デザイナーがまだ正式な職種でなかった時代、部門間のコラボレーションを画期的に重視したブラウンは、学際的な思想家、クリエイター、メーカーが一堂に会して、美的体験をデザインプロセスの最前線に据えた消費者向け製品を創造するためのユニークな環境を培い、日常を非日常へと変貌させた。今日、工業デザインの世界におけるブラウンのスタイリスティックな影響力は、かつてと同様に強く、Appleをはじめとする現代の世界的企業の美的アプローチに直接影響を与えて続けている。

 ブラウン BN0279センターセコンドとブラウン BN0279サブセコンドは、Hodinkee Shopにて、在庫がある限り950ドル(約14万3000円)で販売中です。各時計にはアメリカ国内送料無料、世界送料割引が適用されます。スイス製機械式ムーブメントと特徴的なビーズブラスト仕上げのケースに、クラシックなブラウンの腕時計の要素を組み合わせ、デザイン界で最も尊敬されるブランドのひとつに敬意を表し、Hodinkeeが華やかさを添えてました。

テニススター、そしてスイス時計業界の巨匠らが集結。

米国を拠点に、スイスで製造されるフレミングは、創業者の長年の情熱による集大成であり、長期的な視野でこの業界に参入することを計画している。

時計の世界はとても狭く、“秘密”という概念は曖昧に守られているだけであり、もしかしたらこの話の一部をご存じかもしれない。しかし本日(3月11日)、米国に拠点を置く新しい独立ブランド、フレミング(Fleming)の最初の時計、“シリーズ1 ローンチエディション”がついに登場した。スイスのパートナーと協力して製作された時刻表示のみのドレスウォッチは、すでにさまざまな計画段階に入っている3つの時計コレクションのファーストシリーズだ。“フレミング”という名前は知らなくとも、この新しいブランドの背後にいる人物の何人かは知っているかもしれない。

フレミングのシリーズ1は、パンデミックの最中に自身のブランドを立ち上げることを夢見たコレクターである、アメリカの若き創業者トーマス・フレミング(Thomas Fleming)氏の脳内から生まれた。その夢を実現するために、彼はスイス時計業界にいる巨匠たちに協力を仰いだ。

「情熱があってこそのプロジェクトです」とフレミング氏は言う。「過去50年間のうち、本格的な大規模事業を開始してから、数年以上存続しているブランドはほとんどありません。このような事業に取り組むには、情熱が必要なのです。そして私は時計への大きな情熱があったので、自分の時計をつくるのは楽しいだろうと思いました。しかし時計に対する独自のコンセプトや時計製造のアプローチなど、ほかのブランドとは異なるものを作りたいという思いもあったのです」

実はコン氏はフリーランスのフォトグラファーとしてHODINKEEで働いていたことがあり、私がHODINKEEに入社するずっと前から、ニューヨークの時計イベントで何度か会っていた友人である。フレミング氏とはInstagramで同じようにつながり、数年前にやり取りを始めている。しかし友人になった当初から両者には、今回の発売に関するいかなる報道についても、話題にする価値のある製品であることが前提だと伝えていた。そして彼らは結果を残したと思う。

フレミング シリーズ1 ローンチエディションは、現代的なドレスウォッチとして最適なサイズである。直径38.5mm、厚さ9mm(うち1mmはドーム型風防)、ラグからラグまでは46.5mmで、ケースは3種類の素材で展開している。トーマス・フレミング氏は、“何百ものケース”を3Dプリントして縦横比を計算し、実際に装着してサイズ感を調整した。ミドルケースはサテン仕上げの上下面、ポリッシュ仕上げのケース側面、開口部が設けられたホーン型ラグの3つのパーツから成る。素材はタンタル(25本)、ローズゴールド(7本)、プラチナ(9本)が用意され、価格は4万5500スイスフランから5万1500スイスフラン(日本円で約765万~865万円)となっている。

ケース内部には、有名な独立時計師ジャン-フランソワ・モジョン氏とクロノードのチームが開発したCal.FM-01を搭載する。ムーブメントは伝統的な手作業によって仕上げられた、セミスケルトンのブリッジと香箱が特徴だ。これにより約7日間のパワーリザーブを実現するツインバレルに供給された巻き上げ量を確認することができる(なおムーブメントの裏側にもパワーリザーブ表示がある)。

モジョン氏が加わったことは、プロジェクトにとって大きな恩恵をもたらした。彼の仕事は、彼自身の影響力と比べるとやや控えめだが、伝説的だ。カリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)氏と組んだMB&FのLM01とMB&F LM02のムーブメントから、ハリー・ウィンストンのオーパスX、エルメスのアルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ、チャペックのケ・デ・ベルクまで、数え始めるときりがない。

同プロジェクトと同様に恩恵を受けているのが、名匠カリ・ヴティライネン氏が所有するコンブレマインで作られる、手作業で装飾された文字盤だ。同チームの技術は一目瞭然である。RGのモデル(シリアルナンバー入り7本)は、インナーダイヤルとランニングセコンドのインダイヤルに手打ちで模様を入れ、アウターリングには手作業によるギヨシェ彫りが施されている。プラチナモデルの文字盤は手作業によるギヨシェのみで仕上げている。最後に、タンタルモデルの文字盤には、フロストプラチナとダークブルーのアベンチュリンをミックスしている。

これらのサプライヤーに加えて、ブランドはラ・ショー・ド・フォンのTMH(Traditional Mechanical Horological)社から追加部品を調達し、さらにル・ロックルのデザインスタジオ、ネオデシスと共同でデザイン設計している。またスイス・バスクールにあるエフェトールは、タンタルを含むこれらのケースに取り組んだ。ラグがスケルトンになっているため、ほかのケースメーカーはタンタルでそれを実現するのは不可能だと考えていたと、フレミング氏は教えてくれた。

最後に、新進ブランドを手に入れる際に安心できる付加価値として、フレミング氏は保険会社と提携し、購入者が加入や承認をせずとも、販売時に1年間の無料補償をつけることを実現した。

昨年、3度のグランドスラムのファイナリストに残った、熱心な時計愛好家であるキャスパー・ルード(Casper Ruud)選手が、2023年6月の全仏オープンでブランドを“本格的に立ち上げ”たとき、どこからともなく現れたのだ。フレミングにとってもルード氏にとっても、それは大胆な行動であった。